海藻の激減がもたらす環境問題とは
海藻は日本人にとって馴染み深い食べ物の一つです。しかし、海藻が実は地球環境にやさしい食品ということをご存知でしょうか?海藻は海の中に生息していますが、陸上に生える植物同様に光合成を行い、二酸化炭素を吸収します。こうした海藻などによって海中へ吸収される二酸化炭素は「ブルーカーボン」とも呼ばれます。山々の森林と同じように、海の中の海藻が豊かになるほど、多くの二酸化炭素が海中に吸収されるのです。
ですが、最近、日本周辺の海では海藻の激減、いわゆる「磯焼け」の問題が深刻になっています。日本では北海道が天然昆布の産地として有名ですが、道内のとある昆布の一大産地では2022年度の真昆布収穫量がほぼゼロになっています。この産地では、2014年までは700トンほど収穫できていたのに、10年足らずで一気にゼロになってしまったのです。
この原因と言われているのが、温暖化による魚の食害の深刻化です。海藻は海に暮らす魚にとって餌となりますが、実は魚は水温が上がるにつれて、食べる餌の量が増える傾向にあります。つまり、温暖化で海水温が上昇するにしたがって、魚たちの食欲も旺盛になり、海藻が過剰に食べられてしまっているのです。このままでは、ブルーカーボンの吸収量が下がることはもちろん、住処を失われた魚も数を減らし、海の生物多様性が失われてしまうかもしれません。
日本でも海藻を復活させるための取り組みは各地で行われていますが、実は世界でも、ブルーカーボンの可能性に注目して、海藻の栽培に取り組む動きが広がっています。
「でも、海藻を食べる国って日本くらいなんじゃないの?」こう思われる方もいらっしゃるかもしれません。確かに、アメリカをはじめ、世界の多くの地域は海藻を食べる文化を持ちません。ですが、4つの連合王国である英国(イングランド・ウェールズ・スコットランド・北アイルランド)の南西部の国「ウェールズ」では「ラバーブレッド」と呼ばれる、海苔のペーストが伝統食の一つにあり、現地では焼いたパンなどにこのペーストを塗って食べるのがポピュラーな食べ方です。
しかし、ウェールズの伝統的な海藻食文化も近年衰退の一途をたどっています。そこで、ウェールズの海藻をもっと多くの人に楽しんでもらうことを目指して、2017年に立ち上がったブランドが「バルティ・ラム」(Barti Rum)です。
バルティ・ラムは、ウェールズでとれた海藻をラム酒のフレーバーに用いたラム酒であるBarti Spiced Rumを開発し、日本をはじめ世界で注目を集めています。その海藻というのも、日本人にも焼き海苔などで馴染み深いアマノリが主体となっているそうなのです。ラム酒と海苔!? ちょっと想像がつきませんね!
編集部でもこのバルティ・ラムを入手し、飲んでみました。正直に言うと、「海苔っぽい香りが来るのかな、、、?」とおっかなびっくりで。ところがその感覚は、まったくの間違いでした。バニラのように甘やかに香る熟成ラムの香りの中に、ほんのり遠く磯を感じさせる香りがあるものの、私たちが考える海苔の香りよりもっと上品です。そしておもしろいことに、普通のラムとはまったく違う、海藻の旨み成分が味わいの中に感じられるのです。口の中の世界が拡がるような印象で、その旨みの中にほのかに感じる海苔の独特な味わいがクセになります。
そんなオンリーワンの世界観を持つバルティ・ラム。今回はその創業者であるウィリアム・ジョナサンさんにお話を伺いました。
海藻の人気上昇中!ウェールズで生まれる「海藻ラム酒」
まず、ジョナサンさんが海藻に関心を持たれたきっかけを教えてください。
ジョナサンさん 私はもともと、イングランドでサステナブルビジネスに関するコンサルタントをしていましたが、昔から海が大好きだったので、海の持続可能性に貢献できるこの事業を始めました。
また、海藻は地元・ウェールズの伝統的な食文化でもあります。ウェールズ近海は海藻が生息するのに適した地形をしており、ウェールズ周辺だけで1000種類もの海藻が生息しているのです。ただ、1980年代から2000年代にかけて、ここウェールズでも海藻の食文化は徐々に廃れていました。特に若い世代は海藻を避ける傾向にあったと思います。しかし、ここ最近は海藻への注目がとても高まっているように感じます。例えば、ウェールズの高級レストランでも、ラバーブレッドを取り扱うところがかなり増えました。
その理由は何なのでしょうか?
ジョナサンさん いくつかの要因があると思いますが、大きな理由の一つは、海藻の栄養価に注目が集まっていることです。海藻にはタンパク質が多く含まれており、栄養素のポートフォリオを考えると、最も優秀な食品だと思います。
そして、海藻の人気復活には、日本の存在も大きく影響しています。イギリスでも、日本の寿司文化が浸透していて、寿司のチェーン店がたくさんあり、スーパーなどでも普通に寿司が売られています。寿司を通じて海苔を食べることで、イギリス人にとっても海藻を食べることへの抵抗がなくなってきたのだと思います。ですから、私としては「日本と寿司、ありがとう!」と強く言いたいですね(笑)。
海藻への注目度合いをますます高めるためにも、我々は今年から「世界ラバーブレッドの日」として海藻の記念日を立ち上げました。実はこの記念日、日本とも関係があるんですよ。現在日本では海苔の養殖が各地で行われていると思いますが、この養殖技術はウェールズで海苔の養殖に取り組んでいたイギリス人のドリュー教授という研究者が日本に伝えたものなんです。
九州の有明海に面している熊本県宇土市の住吉神社では、海苔養殖の研究と実績により日本の海苔漁業に多大な貢献をされたドリュー女史に永遠の敬意を表し、今も毎年4月14日ドリュー教授の命日を「ドリュー祭」として厳かな式典が開催されています。そこで我々は宇土市のドリュー祭の4月14日を「世界ラバーブレッドの日」に制定し、世界に広がる海藻食文化を知ってもらう機会にしたいと考えています。
ちなみに、世界ラバーブレッドの制定を記念して今年(2022年)、宇土市の住吉神社で開催されたドリュー祭にウェールズ政府日本代表が参列、我々のBarti Rumを奉納して頂いたと聞いています。
いやあ、日本の海苔養殖がそんな風にして始まったとは知らなかったですよ。そして、由緒正しき神社にBarti Rumが奉納されているなんて、素敵です。
ところで、ジョナサンさんは、海藻がブルーカーボンを吸収する役割にも強く注目されているそうですね。
ジョナサンさん もちろんです。生物学の専門家と協力をしながら、海中に吸収されるブルーカーボンを増やすために、海藻の養殖プロジェクトにも取り組んでいます。ブルーカーボンは海藻などに吸収された炭素のことを指しますが、海藻が枯死することなどによって海底に堆積すると、それだけ海中深くに炭素が隔離されるため、より長い間、炭素を貯留することが可能になります。
また、我々はブルーカーボンだけではなく、海藻の養殖によって、海の生物多様性を豊かにしていきたいと考えています。そのために、我々のプロジェクトでは養殖に必要なロープに麻などの天然由来の素材を使い、プラスチックなどで海を汚染することがないようにしています。いずれは海藻を養殖させながら、牡蠣やロブスターなども同時に養殖し、「海のガーデン」を海中に実現させたいと考えています。
海藻の価値を伝えるために、ラム酒の開発に力を入れていらっしゃいますが、このラム酒にはどのようにして海藻のフレーバーを加えているのでしょうか?
ジョナサンさん 我々がラム酒に使っている海藻はアマノリです。開発にあたり、昆布などのいくつかの海藻をラム酒にあわせましたが、アマノリの旨みや香りがラム酒の味わいを引き立たせるにはベストでした。
我々の工程では、度数が高いベースのラム酒に、アマノリを入れた大きなティーバッグのようなものを浸して、ラム酒に海藻の風味を移しています。日本では昆布を浸して出汁をとる文化があると思いますが、イメージとしてはそれと同じですね。
なるほど!出汁をとるような方法でラム酒を作られているとは。大変興味深いです。ラム酒以外に、今後はどのような商品展開を考えていらっしゃいますか?
ジョナサンさん 我々はすでにラム酒以外にも、BBQソースや、キャラメルソースなど、海藻をフレーバーに使用した多くの商品を販売しています。フレーバーとしてだけではなく、乾燥させた海苔も販売しており、この商品は「ウェルシュマンズ・キャビア」(ウェールズ人のキャビア)と銘打っています。また、ウェールズの地元のクラフト食品メーカーとのコラボも進めて、海藻フレーバーのケチャップなども開発しています。
ウェールズの伝統食であると同時に、ブルーカーボンや生物多様性を通じてサステナビリティに貢献できる海藻の可能性をもっと広げるために、これからも多くの方にラム酒をはじめ弊社のプロダクトを楽しんで頂きたいです。ぜひ、日本の皆さんにも、サステナブルなウェールズの海藻をぜひ味わって頂ければと思います。
いかがでしたか? 遠く離れたウェールズでも、私たちが慣れ親しんでいるアマノリを利用していると言うことに驚きを感じませんか。日本の海藻を巡る状況もとても深刻ですが、同じ海藻を愛する国として、ウェールズのバルティ・ラムを味わうことで、未来を切り拓くためのヒントをもらえるかもしれません。
そのためにBarti Spiced Rumは編集部からもお薦めしたい逸品です。ぜひお試しください。
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